志賀瑞翁（しが ずいおう）　＜江戸時代＞

詳しい資料は残っていませんが、江戸時代に生きた人で、榊原越中守の家来だったそうです。大変な長寿で、人生５０年といわれた時代に187歳で亡くなったとか…。う〜ん１８７歳？？？とはちょっと信じがたい数字ですが、百余歳まで長生きしたことは確かなようです。しかも臨終の間際までお大変元気だったとか。瑞翁が亡くなった後、その長寿にあやかろうと墓詣でをする人が少なくなかったそうです。

江戸時代といえば、まだまだ人生５０年、あるいは４０年ともいわれた頃。そんな時代に百余歳まで長命し、しかも壮者をしのぐ健康ぶりであったというのですから、長生きの秘訣を教えてもらいたい、と尋ねてくる人が後を絶たなかったというのも頷けます。

ある日、瑞翁にどうしても長生きの秘訣を教えてもらいたい、と頼みに来る人がありました。
しかし、瑞翁はにこにこ笑いながら、「さあ、秘訣があるにはあるがのう…」となかなか教えてくれませんでした。それでも熱心に何度も何度も頼み込むと、「じゅあ、教えてあげますから、七日間精進してください」と言いました。七日間は生臭いものは食べないで下さいということでした。その人は、長生きの秘伝を授かるためになら七日間の精進くらいはなんでもない、と言われた通りにして八日目に瑞翁を訪ねて行きました。

すると、「そうだなあ、もう三日間精進して下さい」と言われたので、また三日してから訪ねると、「もう一日精進してくれ」と言います。馬鹿にしてやがる！と腹が立ったけれども、乗りかかった船だからしようがない。また一日精進して、今度教えてくれなかったら承知しないぞとばかり、勢い込んで訪問すると、瑞翁は言いました。「まあまあ、こちらの方へ」と奥の一室へ案内されました。
通された奥の部屋で、いよいよ秘伝を伝授されるかと胸をときめかせていると、瑞翁はその人の耳に口を寄せて、低い声でこう言いました。「あのなあ、気を長うお持ちなされ」　このひと言でした。このたったひと言で、瑞翁の秘伝伝授は終わりました。その人は呆然とするばかりだったそうです。


長生きの秘伝ともあれば時代を問わず誰もが興味を持つものです。現代においても長寿といわれる方々のお話を伺うと、そこに共通してあるのは、とてもシンプルなことをしっかり守っておられるという点です。何を守っているかというのは、人それぞれに異なりますが、それが瑞翁の場合は、「気を長く持つ」ということだったのでしょう。　しかし、これも瑞翁が長く生きた中で、自分自身を深く見つめたところから得た大悟であったことと思います。故に、ならば自分も、とそれに習ったところで瑞翁のように長生きできるかどうかは分かりません。その秘訣を見つけ出すことこそが、人生の醍醐味といえるのかもしれません。

くよくよしたり、眉をしかめる日々より、何事も大口開けて笑い飛ばすくらいの気概があれば、長生きできるかな〜？？気の短い私は、とりあえず、美味しいものを美味しく頂いて、一日一回思い切り笑う、ということを守ろう、と思います。

実りの秋〜何を食べても美味しくて…つい食べすぎてしまうことの多い季節です。

仁木健三氏（明治時代の医師）の『十少十多の健康訓』　をご紹介します。

食うこと少なくして、噛むことを多くせよ。
乗ること少なくして、歩くことを多くせよ。
着ること少なくして、浴びることを多くせよ。
悶ゆること少なくして、働くこと多くせよ。
怠けること少なくして、学ぶこと多くせよ。
語ること少なくして、聞くこと多くせよ。
怒ること少なくして、笑うこと多くせよ。
言うこと少なくして、行うこと多くせよ。
取ること少なくして、与えること多くせよ。
責めること少なくして、誉めること多くせよ。


終わり ――― 次月をお楽しみに!!

春日大社 御神木